文藝芸人を読みました、その感想です
文藝春秋と吉本興業のコラボ本、「文藝芸人」をコンビニで見掛けて、買ってしまいました。
一見して、千円か千二百円くらいのムック本かと思いましたが、実際の価格は七百四十円で、良心的な感じがしました。少なくとも、レジにいる時は、そう思っていました。
しかし、家に帰って、いざ読んでみると、「文春が、千円以上で売る自信がなかっただけか?」と、印象が変わりました。
又吉直樹の「火花と劇場の秘められた関係」という、インタビュー記事と、野沢直子の「笑うお葬式」という、彼女の父親の死と思い出を綴った手記は、当たりです。本家の文藝春秋に掲載されていても、何の違和感もありません。
東野幸治の「週刊誌愛35年」と、岡村隆史の「恩師だけに明かした、心の病と、お笑いの厳しい現実」と、西野亮廣の「えんとつ町のプペルの作り方と届け方」という記事は、比較的当たりです。
ただ、東野幸治の記事は、面白いのに、文量が少なくて残念な感じです。主要週刊誌を12誌も語って、見開き2ページで終了とは・・・編集者やマネージャーが、どんどん、質問していけば、3倍から5倍の文量になったはずで、本当に残念です。完全に、書き手のミスではなく、支える側のミスだと思います。
他の記事は全て、外れか、ほぼ外れです。特に、小説陣は酷く、壊滅状態です。良い作品なんて、ひとつもありません。
どの作品が、どれだけつまらないかは、好みでしかありませんが、私が最もつまらなく感じたのは、福徳秀介の「卒業文集プロポーズ」です。学校の人気者かつ頭の良い中学生のデビュー作といった感じで、大人が読んで楽しめる青春小説というより、児童文学でしかありません。なので、もしかしたら、十代前半の人には、ウケているかも?
「私の趣味自慢」という、エッセイ企画の星田英利「生き物と同居、マルチーズじゃなかったマル」は、面白かったというより、良かったです。多くの芸人執筆陣が、文藝春秋とのコラボということで、「文章らしい文章を書こう」と、肩肘を張っている中、一人だけ、普段の語り言葉で、読みやすい、構成のキッチリした、軽いタッチのエッセイを書いていて、好感が持てます。
「私の人生を変えた、本、映画、音楽」という、アンケート企画は、驚異的な内容の薄さで、今時の芸人は、高学歴かつ勉強家のインテリが多いという話は、これを読むと「そうでもないのかな?」と、思わざるえません。
ツイッター的に、短文で、百人もアンケートを取るよりも、芸人として有名か無名かは問わず、心底、本と映画と音楽が好きな人に、各ジャンルのトップ5でも訊いたうえで、長く語ってもらった方が良かったと思います。
最後に、「松本人志、若手芸人との共同論文」について、書こうと思います。
私は、日本で、すでに亡くなっている人を除いて、つまり、現代の生きた日本人の中で、「天才といえば?」と訊かれて、最初に思い付く人物が松本人志なので、この本を買った主要な理由も、デカデカと松本人志の名が記されていたからなのですが、はっきり言って、フェイクニュースの被害にあった気分です。
この企画、名前を貸しているだけで、松本人志、殆ど何の関係もありません。そもそも、論文だなんて、そんな高尚なものじゃありません。よくある、若手芸人の大喜利コーナーです。
松本人志が唯一関わった3つのお題も、長い時間をかけて、10も20もある候補の中から選ばれたというよりは、テレビ局の楽屋で、マネージャーが「今度、文藝春秋とコラボして、本を出すことになったんですけど、松本さんも、何らかの形で参加してもらえませんか?あの・・・あまり乗り気じゃなかったら、大喜利的なお題だけでも、いただけませんか?何とか、こっちで記事としてまとめますんで。出来れば5つ、いや、3つで結構です」と松本人志に、必死に頼み込んで10分後に出来上がった、みたいなお題としか思えません。
更に、「200人以上の若手芸人が、原稿用紙1枚の言葉で答えた文藝論文。その中から、厳選した28本を掲載する」 と1ページ目に書かれていますが、皆さん、よく集中し、気を付けて読んでください。
松本人志が厳選したとは、どこにも書かれていないのです。それだけに、掲載された若手芸人の回答の大半は、スベっています。
こんなフェイクニュースまがい、天下の文藝春秋社がやってもいいのでしょうか?
何だか、やや批判的な話が多くなってしまいましたが、私は、こういうコラボ企画本自体は好きなので(ムック本というスタイルも)、次号が出たら、また買ってしまうことでしょう。
たとえ、私の好きな松本人志が、名前を貸しているだけの参加しかしていなくても・・・。