詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

バケツかぶり族の憂鬱

 

ある寂れた港の、灯台の側で

バケツ男、バケラッティと

その妻、バケリーナが、自分たち

バケツかぶり族の将来を憂いながら

空を舞う、カモメの群れを眺めていた

 

この夫婦とは、少し離れたところで

 

二人の子供の

長女、バケルンナ

長男、バケレノン

次女で末っ子の、バケロリーザが

こんな童謡を、楽しく唄っていた

 

「脱ぎたくっても、脱げないの

 バケツは、顔の一部なの

 そるじゃあ、キスはどうするの?

 

 頭突きだけして、我慢する

 

 それでも、子供は出来まする

 それでも、子供は出来まする

 

 さあ、皆さん、ご一緒に!

 

 それでも、子供は・・・」

 

「くだらない歌は止めろ!」

父、バケラッティが怒鳴った

 

末っ子のバケロリーザは、泣き出した

 

長女のバケルンナが、慰めている

 

長男のバケレノンは、反抗期なのか?

「バケツかぶり族の、伝統を守れって

 いつも、うるさいのは

 父さんじゃないか?

 この歌は、バケツかぶり族が

 何百年も、いや

 千年以上、語り継いで来た

 魂とも言うべき、名曲の中の名曲だよ!」

と、父に食ってかかった

 

「レノン、大きな声を出さないで!」

と、母バケリーナが諫める

 

父、バケラッティは

「・・・別の歌にしなさい」

とだけ言って、再び

空を舞う、カモメの群れを眺めつつ

こんなことを考えていた

 

この子たちは、ちゃんと、成人まで

 

生き残れるのだろうか?

 

バケツかぶり族というだけで

他に何の理由もなく

いきなり、警察官に射殺されても

文句ひとつ言えない

 

酷い、世の中なのに

 

「それでも、子供は出来まする」

 

父に、きつく注意されても

ちっとも懲りない

 

バケレノンの歌声が、夕暮れの 

静かな港に、響き渡っていた