詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

開かない夢の扉

 

十五の時から、約半世紀

 

自宅の裏山にある

洞窟の扉を開けようと

勉強も、仕事もせずに

努力を重ねてきた、私は

 

ついに、諦める決意をした

 

思えば、この五十年間

祖父母が死に、両親が死に

身内は呆れ、世間は笑い

 

私は、世の中から

完全に、孤立してしまった

 

この扉のせいで

人生の大部分を、失ってしまった

 

「この扉は、開かない

 極めて、頑丈だ」

と、扉に貼り紙だけして

 

私が、山を下りようとした時

 

大柄で逞しい、男の若者がやって来て

扉の貼り紙を読み、大声で笑った

 

そして、懸命に、扉を押し始めた

 

当然、扉は、ビクともしない

 

「無理だよ、その扉は開かないんだよ」

と、私は苦笑しつつ、忠告した

 

若者は、とにかく自信家で

それゆえ、私を見下すかのように

こんなことを言った

 

「僕は若い

 あなたのような

 年寄りとは違う」

 

 

一週間後、若者は

まだ、扉の前にいた

 

恋人らしき女が、食事を届けに来ていた

 

女は、無邪気な笑顔を見せ、こう訊いた

「この扉の向こうに

 山賊の宝があるのね?」

 

若者は、素っ気なく答えた

「知らない」

 

また、一人の若者が

人生を棒に振ろうとしていた