彫り師、その名人芸
男は自分の右肩に
全長五センチほどの
鼠の刺青を彫った
余程、職人の腕が良かったのか?
刺青の鼠は、魂を宿し
チュウチュウ、鳴きながら
男の背中を、胸を、腹を
慌ただしく、走り始めた
数日後、男は
刺青鼠の鬱陶しさに、耐え切れず
この刺青を彫った、職人の店へと向かった
「刺青猫シールを貼りましょう」
話を聞いた職人は、そう提言し
男の上着を脱がせ
背中に、刺青猫シールを貼った
あっ、と言う間に
刺青鼠は、刺青猫シールに
捕らえられ、くわえられ
噛み砕かれ、飲み込まれた
そして、職人は
刺青猫シールの首根っこを掴み
丁寧に、剥がしていった
男の身体は、元通り、きれいになった
ひと仕事終えて、職人は言った
「刺青なんて、傷痕と変わらないんだ
もう、軽い気持ちで彫りに来るなよ」