ほぼ認知症の祖母、孫に、ハッピーな妄想を語る
今回も「詩と寓話とシュールレアリスム」ならぬ、「看護と介護と、そのリアリズム」の話です。
午前十時のお茶の時間、祖母は月餅の胡桃を、面倒臭そうに吐き出しながら、それを猫の餌を入れる容器に捨てつつ、私に言いました。
「二階にいる女が、また騒いでいる。昨夜もうるさかったが、人の家に来て、どういうつもりだろう!」
このブログを購読している方は、察しがついているでしょうが、今も、昨夜も、二階に女なんていません。二階の女が・・・の話は、祖母の得意の妄想話のひとつです。
このように、祖母の妄想話を聞いた時の私は、「うるさくなんかない。女なんかいない。誰もいない。昨夜も同じ」と、真実を述べるので、「そんな訳ない。お前は、どうかしている」、「どうかしているのは、そっち」と、軽い言い争いになるのですが、また、同じやり取りをするのも、つまらないので、今日は祖母の話を、うんうんと頷いて、話を合わせてみました。
すると祖母は、すっかりご機嫌になって、私がまだ聞いたことのない、新たな妄想話を、次々、披露してくれるのでした。
「あの、二階の女は、○○(私の兄)と結婚するのだろう。うるさい女は嫌いだが、私が、どうこう言う問題じゃない。ただ、他の人には挨拶をして、私のところには、挨拶に来ない。それが腹立たしい」
言うまでもなく、兄に結婚する予定なんてありません。どうでもいい情報で恐縮ですが、私・兄・妹、三人とも独身です。それゆえに祖母は、願望も込めて、こんな妄想が飛び出してしまうのでしょうか?だとしたら、罪な孫たちです。
「年金の貰える額が上がったから、お祝いくらいはやるが、本当は、あんなふざけた女に、一円もやりたくない」
何らかの名目で、年金の支給額が、減ることはあっても、増えることはない、そういう御時世かと、私は勝手に思っていましたが、祖母の住む世界では、事情が逆のようです。
「○○(私の母)も、今日はカツ丼を食べたようだし、元気な証拠だ。長男の結婚式にも出られるだろう。私は、汚ないババアだから、結婚式には出られないし、出たくもない。しかし、それにしても、あの女、挨拶にも来ないのは酷い」
胃癌を患っていて、食欲のない母は、昨日、今日と、やっとお粥を食べられるようになったばかりで、カツ丼なんて食べられる訳ありません。大して、元気もありません。ただ、汚ないババアは結婚式に出られない、という話に限っては、満更、客観性のない話でもない気もしますが・・・。