詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

やすらぎの郷~あの倉本聰が夢想した、人工的ユートピア~

 

 放送枠に、シルバータイムドラマと銘を打ち、現在、話題になっている、テレビ朝日「やすらぎの郷」を十話まで観た感想です。

 
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 脚本家の倉本聰氏の「今のままのテレビ(ドラマ)ではいけない。何か一石を投じたい。今、テレビというメディアに求められているものは、視聴者の心を洗うような感動!」という、高い志をコンセプトに立ち上げられたドラマ(放送枠)だそうですが、正直、どれだけ、高い理想があっても、情熱があっても、挑戦的であっても、ドラマそのものがつまらなければ、その意義は半減すると思います。

 

  まず、このドラマは、ナレーションが長いうえに、やたら説明的です。特に序盤で、海辺にある、テレビに貢献してきた人々のための豪華老人ホーム、「やすらぎの郷」の成り立ちやシステムについて、「これでもか!」と、語られていくのですが、別に視聴者は、入居希望者ではないので、出来れば、程々にして欲しかったです。

 

 ストーリーの展開も、今、何かが起きるのではなく、すでに起きたことが、登場人物の思い出として語られるだけで(長丁場になるドラマが、まだ始まったばかりで仕方ないという面を差し引いても)、かなり退屈します。

 

「大納言シリーズ」のような、思わず笑ってしまうエピソードも、少なからずありますが・・・。

 

 また、登場人物たちが会話をする場所も、殆んど同じです。というより、どこで会話しても同じという感じです。おそらく今後は、松岡茉優演じるハッピーちゃんのバーで、会話することが多くなるのでしょう。誰がやって来ても、おかしくない場所なので、利用しやすいはずです・・・脚本家が。

 
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 ちなみに、これまでに十話が放送され、どのくらい、ストーリーが進んだかというと、「石坂浩二演じる菊村が、やすらぎの郷に入りました、多くの知り合いと再会しました、どうやら、シナリオを一本、書くことになりそうです」、これだけです。

 

 もちろん、「これで十話持たせちゃうんだから、倉本聰は凄い!」という評価の仕方もあるのでしょうが、持たせているというより、老脚本家にありがちな、自分が世の中に対し思っていることを、全てそのまま台詞にし、そっくり役者に言わせてしまえという、橋田壽賀子方式と同じ匂いがします。

 

 違いがあるとすれば、「やすらぎの郷」の方は、キャストが老人ばかりなので、いかにも老人らしい世の中への皮肉が混じっていても、さほど違和感がないのに対し、「橋田壽賀子ドラマ」の方は、幼稚園児役の台詞すら、壽賀子がとり憑いて語っているようなものなので、かなり、違和感が残る点でしょうか?

 

 ま、この違和感を突っ込むのが楽しみという、ドラマファンも少なくないのでしょうが・・・少し話がそれてしまいました、申し訳ありません。

 

 

  海辺の側、豊かな自然、美味しい食事、お洒落なコテージ、サウナに温泉、トレーニングジムにエステサロン、バー、本読み放題、ビデオ見放題、各遊戯施設、医師もいれば、看護士も介護士もいて、ほぼ、無料の生活・・・それにしても、何て羨ましい老後、そう思っている視聴者も多かったりするのでしょうか?

 

 はっきり言って私には、牙を抜かれた動物たちが、やすらぎの郷という名の動物園の檻の中で、やすらぎ財団から、エサをもらって飼われているようにしか見えないのですが・・・かつての大スターって、ここまでプライドがないものなんでしょうか?

 

 聞いてもらうのも恥ずかしいですが、私にとっての理想の老後は、自分の好きな街で、1DKのアパートでもいいから、とにかく健康で、貧しくても経済的に自立していていて、誰の世話にもならずに生きて、やがて死ぬことですが、これだと夢がなくて、ドラマにはならないのでしょうね。

 

 やすらぎの郷という施設は、作者(脚本家)の倉本聰氏の、ある種のユートピア像が反映されていることは、間違いないと思います。

 

 だとすると、あの倉本聰にとっての幸福な老後像、人間生活のユートピア像が、単なる豪華老人ホーム(無料)だなんて・・・案外、陳腐で俗っぽい人物なんですかね?

 

 尤も、ドラマの終盤、このやすらぎの郷という施設が、リーマンショック級の世界的金融危機か何かで、運営不可能になって、主人公の菊村は、初回に登場した息子の家で、しばらく世話になることになり、あの相性の悪い嫁と口論する日々・・・狭いベランダで喫煙しながら「好きな友人たちと過ごす、天国のような日々も良かったが、嫌いな身内と過ごす地獄のような日々も、そんなには悪くはない」と、菊村に言わせるようなラストなら、納得ですが・・・逆に今時、流行らないのかも知れませんね、「青い鳥」のパターンなんて・・・。

 

 

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