詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

ひよっこ、実が記憶喪失というエピソードは、そんなにおかしい?

 

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 NHK・朝の連続テレビ小説「ひよっこ」は、主人公のみね子が、2年以上、行方が分からなかった、父・実と、女優・川本世津子の自宅で再会、これだけでも、十分、大きな出来事なのに、そのうえ、父・実が、記憶喪失であることが判明、自身のことも、みね子のことも、分からないという、色々な意味で、衝撃の展開に、ネット上では、「記憶喪失なんて、あり得ない!いつの時代の、どこの国のドラマ?」という、否定的な意見が多く飛び交う中、視聴率的には、このドラマの過去最高記録を更新(第105話)しています。

 

 少し話は変わりますが、チェコ出身のドイツ語作家、フランツ・カフカ(シシド・カフカとは無関係)は、「変身」という小説で、「主人公が、朝、目覚めたら、虫になっていた話」を書き、それは奇抜な設定ながら、人間心理のリアルを、ドライにユーモラスに描いた名作として、今でも、世界中で読み継がれています。

 

「一体、何の話?」

 

 カフカの「変身」の、「主人公が、朝、目覚めたら、虫になっていた話」が許されるのに、東京出身の日本語脚本家、ヨシカズ・オカダの「ひよっこ」で、「主人公の父が、白昼、棒で殴られたら、記憶喪失になっていた話」を書くことが、なぜ、許されないのか、という話です。

 

 カフカの「変身」は、主人公が虫になるという設定だけは、あり得ないものでしたが、「虫になった人間は、何を思い、どんなことをするか?」、「虫になった人間の家族は、何を思い、どんなことをするか?」、「虫になった人間を、他人は、何を思い、どんなことをするか?」が、詳細に描かれているため、多くの読者が「人間が虫になる?バカらしい!」とはならずに、本来、感情移入し難いはずの、不条理な物語に、最後まで、付き合わされることになります。

 

 岡田氏の「ひよっこ」における、登場人物が、記憶喪失になる話なんて、主人公が、始まって、いきなり、虫になる話よりは、格段に、あり得る話です。

 

 問題は、記憶喪失をドラマに取り入れたことではなく、誰かが、記憶喪失になったとして、「その本人は、家族は、周囲の人たちは、何を思い、どんなことをするか?」が、きちんと描かれているかどうか、だと思います。

 

 で、岡田氏の「ひよっこ」ですが、残念ながら、今のところ、それが、きちんと、描かれているとは、言い難い感じです。

 

 

「なぜ、世津子は、浮浪者同然の実を、家に入れ、そのまま、一緒に生活を始めたのか?」

 

「なぜ、実は、イマイチ、過去の自分に興味を持たず、今に至ったのか?」

 

「なぜ、実は、外で働くという選択肢を持たなかったのか?」

 

「なぜ、実は、監禁されている訳でもないのに、あの家を出よう(このまま、世津子に迷惑をかけている訳にはいかない)とは思わなかったのか?彼女と恋愛関係にあるからだとしたら、そこをドラマとして、描く必要があるのではないか?」

 

「なぜ、有名女優の自宅に、一人の男が、2年半も同棲状態にあって、マスコミに限らず、誰にもバレずに済んだのか?彼女の事務所の人間など、誰かは、知っていた(協力者がいた)のか?赤坂の方じゃ、ただの、みね子のご近所さんたちが、みんな知ってるのに・・・」

 

「警察には行かない、自分が加害者かも知れないから、という理由は、実の性格上、合っているのだろうか(だからこそ、彼は、自首するタイプでは)?また、警察に行かないのは、百歩譲って、意味があるとして、ずっと、病院へ行かない理由は?」

 

「みね子も、美代子も、実が記憶喪失だと納得するのが、早過ぎないだろうか?」

 

「鈴子は、実本人と会う前に、やんわり、彼の記憶喪失を疑ったようだが、それ以外の人たちは、みんな、会う前も、会ってからも、信じている、という状況こそ、私には、信じられない」

 

 


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 とにかく、「実ウィーク」と言っていい、第18週「大丈夫、きっと」を観て、私が疑問に思ったことは、もっとたくさん、ありますが、一番の疑問、というより、最も、気になったのは、美代子が、実の意志を尊重して、彼を奥茨城に連れて行かず、東京のみね子に託す話・・・だったら、世津子の自宅で、考える猶予を、実に、無期限に与えたうえで、自分は去り、彼にじっくり、谷田部家に戻るかどうかを判断させる方が、フェアな態度だったかなと・・・それでも、実は、すぐに世津子と別れて、みね子のいるあかね荘に、必ず、やって来たはず・・・脚本家の岡田氏に、赤坂の人たちと実を絡ませ、ワイワイ・ガヤガヤやらせてみよう、という意志がある限り・・・。