氷のトリック、やがて、完全犯罪
これは、ある猛暑の年の
夏の盛りの出来事である
氷女は、ある大富豪の
自宅プールに潜んでいた
自分を弄んだ、大富豪の御曹司に
復讐するため
御曹司が、本命の女と
楽しそうにやって来た
氷女は、水中で静かに待機していた
プールの水温は、凍る直前まで冷えていた
御曹司は、女の服を
優しく脱がしていった
満足げな女の表情が
プールの水面に映っていた
氷女の体は、もう、殆ど溶けて
プールの水と一体になっていた
裸の女が、プールに、爪先を入れた
冷たさで、思わず、仰け反って
プールサイドに倒れた
御曹司は、つまらない冗談だと思って
倒れている女に目もくれず
遠くから助走し、水の中に飛び込んだ
水面が一気に凍りついた
「これでずっと一緒」
という声を、確かに聞いた女は、裸のまま
急いで、この場から逃げ出した
御曹司は、かつての水女に包まれていた
既に、心臓は止まっていた
二人の間に
どのような恋があって
どのような別れがあって
このような無理心中となったのか?
それは、誰も知らない
そして、この御曹司の真の死因も
誰も知らない