西から来たのか、東から来たのか、も忘れた
長い橋の真ん中で
一人の男が立っていた
東にも行きたくない
西にも行きたくない
だから、川を眺めていた
たまに、空も眺めていた
通りすがりの人々に
水や食料を、恵んでもらっていた
「それにしたって、東にも西にも
行きたくない、いっそ川に飛び込んで
北か、南へ、泳いで行こうか?」
もちろん、ちょっと思うだけで
実行には至らない
男は、退屈に、慣れきっているから
このままでいいや、と思っているから
だから、東や西へ行きたくないばかりか
川へ飛び込む、勇気もない
更に、付け加えれば
男は、世の中の誰からも
必要とされていない、それゆえ
今後も、命尽きるまで
あるいは、この橋が朽ち果てるまで
ここに、居座り続けるだろう