未亡人と機械と博士の弟子たち
博士は死んだ、十年も前に
機械が残った、庭の隅の
十畳のプレハブ小屋の中に
この機械は、博士が開発した
この機械は、意外に大きい
この機械は、歯車が無数にある
この機械は、半導体が無数にある
この機械は、電気とガソリンで動く
この機械は、常に熱をおびている
この機械は、決まった時間に煙を出す
この機械は、何の役に立つのか、わからない
博士の命日になると
多くの弟子たちが、揃って博士宅を訪れる
そして、この機械の前で、酒を飲みながら
博士の思い出について、語り合う
毎年、博士の妻は、決まってこう言う
「この機械、止めてしまう訳には
いかないのでしょうか?」
弟子たちは、凄い剣幕で
「とんでもない!」と怒る
そして、「失礼かも知れませんが」と
全員、燃料代と書かれた、封筒を差し出す
博士の妻は、それを恥ずかしそうに受けとる
この機械は
博士の弟子たちに、崇拝されている
しかし、この機械は
博士の妻には、負担でしかない