詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

猫に訪れた二つのサプライズ

 

猫の、右の、前足の、肉球が

どんどん、どんどん、膨らんで

もう、その大きさは、猫の顔と変わらない

 

「どうしたんだ?」

通りすがりの男が訊いた

 

「わかりません」

猫は、泣きそうな顔で答えた

 

「まだ、膨らんでいる!」

 

「傷みはないんですけど」

 

次の瞬間、肉球は

勢いよく、破裂した

中身の紙吹雪が、猫の頭上を舞った

 

「これは?」

驚きを隠せない、男が訊いた

 

「いやあ、忘れていました

 今日は、僕の誕生日なのです」

 

猫は、これまでの不安が

すっかり、弾け飛んだようで

それは、嬉しそうな顔をしていた

 

「よし、それじゃあ、私が君のために

 ハッピーバースデーを唄ってあげよう

 驚いちゃうかも知れないけど

 何を隠そう、私はプロの歌手でね」

 

「いえ、結構です

 右前足を失った事実は変わりませんので

 僕は、義足を作りに、病院へ行きます」

 

猫は、つれなく、そう答えて

逃げるように、走り去って行った

 

 残された歌手の男は

かなりプライドを傷付けられたらしく

猫の肉球から出て来た紙吹雪を

五分経っても、十分経っても

踏みにじり続けていた