詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

認知症が進行する祖母、存在しない職人たちに、お茶菓子を届けに行く

 

 昨日、病院へ行った胃癌の母は、予想外に体重が増えていたことで、治療へのモチベーションが上がり、「早く、抗がん剤の点滴を再開したい」と言わんばかりに、朝からちゃんと、お粥を食べたり、アンミツを食べたり、蜂蜜をかけたヨーグルトを食べたり、チョコレートを食べたり、メロンを食べたり、どれも大した量ではありませんが、いつもより、明らかなハイペースで、カロリー摂取に励んでいます。

 

 そんな中、母は、「どうせ、食べきれないから、お祖母さんにあげてきて」と、スーパーのビニール袋に入った、大量のお菓子を私に託しました。

 

 私は早速、そのお菓子の袋を「お母さんから」と言って、祖母に手渡しました。

 

「ちょうど良かった!」と祖母は大きな声を出して、玄関から、庭の方へ出て行こうとしました。

 

 私が「どうするの?どこへ行くの?」と訊くと、祖母は「外の職人に渡してくる。今、お茶を飲んでいる」と答えました。

 

「また、同じ話。ウチの庭に、職人なんていないよ」

「三人・・・四人・・・五人、今日はいつもより、二人多い」

 

 止めても無駄といった感じだったので、私は縁側から、お菓子の入った袋をサンタのように担いで歩く祖母を、ジーッと観察していました。

 

 祖母は、三分くらい、庭をウロウロしてから、縁側にいた私のところへやって来て、「いなかった 」とでも言うのかと思っていたら、「遠慮された。お婆さんが食べなさい、と言われた」と、首を傾げながら言いました。

 

「嘘でしょ、誰もいなかったじゃない!」

「いる!一人、二人、三人、四人・・・一人帰ったけど、四人いる!」

「・・・いてもいなくてもいいから、もう、家の中に入ってくれる?」

「言われなくても入るよ」

 

 祖母はそう言って、豪快な横手投げで、私の方へ、お菓子の袋を、おもいっきり、投げつけました。

 

「これからはさ、庭に職人が何人いたって、何される訳でもないんだから、放って置けば?お茶だって、別に、こっちで心配しなくても、向こうで勝手に飲むと思うよ」 

「勝手に・・・そう言えば、昨日だったか、その前だったか、職人の一人が、断りもなく、ウチの水道を使って、車を洗っていたよ。ケチなことは言いたくないけど、せめて、ひとこと言ってからにして欲しいものだね」

 

 ちなみに、昨日だったか、その前だったか、ウチの水道を使って、車を洗っていたのは、祖母の頭の中にしか存在しない職人ではなく、きちんと実在している私の父親、つまり、祖母の息子だったんですがね・・・。