思いがけない孤独
彼は、幼い頃から
空を飛びたいと思っていた
ある日、夢が叶い
何の前触れもなく
蝶に変身していた
必死になって、両羽を動かした
家の屋根の上まで、浮いていた
そこから見える光景に、感動していた
やがて、羽を動かすのが、億劫になった
というより、疲れて、身体が動かなくなった
そして、ゆっくり、下降していった
彼の遺言「夢なら、覚めて」
かなり、長い間
彼は、木の葉のように、風に翻弄され
静かに、地面へと着地した
とっくに意識などなかった
自分が人間だった記憶も、ない
蝶の死骸に、蟻がたかっている
この一風変わった
葬儀の行列は、どこまでも続くが
そこに、彼の家族は、一人もいない