詩と寓話とシュールレアリスム

タイトル通りのテーマです。シュールな詩と寓話を書きます。たまに、ブログの話やテレビの話、日常生活にあったことを書こうとも思います。

認知症の祖母、実在しない職人に、「お茶を出せ」と無理を言う

 

 今朝のお茶の時間、縁側から、前庭をジッと眺めていた祖母が、私に言いました。

 

「庭の手入れをしている人たちにも、お茶をやったらどうか?」

「庭の手入れをしている人なんて、どこにいるの?」

「どこにいるのって、すぐそこに三人いる」

「一人もいない。庭の手入れなんて、頼んでいないんだから、いる訳がない」

 

 私がそう言っても、「いいから、早く、お茶を出せ!」と、祖母がしつこくせがむので、玄関でサンダルを履かせ、右手に杖、左手に私の服を掴ませ、前庭まで歩きました。

 

 もちろん、誰もいません。強風で、家の中に避難しているので、猫すらいません。

 

「ほら、いない」

「・・・お前がお茶を出さないから、家に帰って飲むのだろう」

 

 ボケた老人にまともに対応し、完全否定してしまうと、自信を失って、更に認知症が進行してしまうという話もあるので、「じゃあ、そうなんじゃないの?」と私が答えると、「そうなんだよ」と、祖母は満足げに、自力で杖をついて、家の中に入りました。

 

 そして、縁側に戻った祖母は、再び、前庭を見つめながら、私に、こう言いました。

「職人が帰って来た。この家では、お茶も出してくれないと、呆れているに違いない」

 

 言うまでもなく、呆れているのは、実在していない三人の職人ではなく、孫の私です。それにしても、何もないのに何かが見えるって、笑えない話です。

 

 サイコ・ホラー映画のオチだったら、本当におかしいのは、奇行を繰り返す祖母ではなく、語り部(主人公)の私だったりするのでしょうが、読者の皆さん、これは紛れもなく現実であり、残念ながら、いかにもフィクションらしい、大どんでん返しはありません。

 

 いや、まさか・・・?

 

 

 今、祖母は、昼ご飯を食べ終え、猫に笑顔で、餌をあげています。

 

 昼ご飯を食べる直前にも、祖母は同じ猫に、かなりの量の餌をあげていたはずなのですが・・・。